我が国には収入に対してかかる税金として所得税と住民税が存在します。所得税や住民税は誰もが徴収対象となる基本的な税金ですがその計算方法は複雑で、税金との関わりが薄い若者等の初学者にとって分かりやすいものではありません。計算方法を理解しにくい要因の一つに、専門用語(固有名詞)が多数登場し、計算式がそれらの語句を用いて示されていることが挙げられるかと思います。世間的には数学的な記号を用いずに説明することが、わかりやすさにつながるといった風潮が散見されますが、語句をそのまま計算式の表現に用いると式の可読性が下がり、式の全容が理解しにくくなります。ここでは、適切に変数を定義し、それらを用いて所得税ならびに住民税の計算式について基礎的な部分をまとめます。本ページでは、所得税について説明します。
所得税
所得税\(T_{\mathrm{I}}\)は以下の式で計算されます。
$$ T_{\mathrm{I}}=\left( I_0 – D_{\mathrm{I}} \right) \times R – D_0 – D_{\mathrm{tax}} \tag{1} $$
ここで、\(D_{\mathrm{I}}^0\)は所得控除、\(D_{\mathrm{tax}}\)は税額控除、\(R\)は所得税率、\(D_0\)は課税対象となる所得\(I_{\mathrm{tax}}\)に応じて決まる控除です。\(I_{\mathrm{tax}}\)は\(I_0 – D_{\mathrm{I}}\)の1000未満の値を切り捨てた数であり、\([x]\)をガウス記号とすると以下の式で表現されます。
$$ I_{\mathrm{tax}}=r_3 \left(I_0 – D_{\mathrm{I}} \right) \tag{2}$$
$$ r_n \left( x \right)=\left[ \frac{x}{10^n} \right] \times 10^n \tag{3}$$
\(R\)と\(D_0\)はともに\(I_{\mathrm{tax}}\)によって決まり、以下の表で与えられます。
Condition | \(R\) | \(D_0\) |
---|---|---|
\(I_{\mathrm{tax}} \leq 1,950,000\) | 5% | 0 |
\(1,950,000 < I_{\mathrm{tax}} \leq 3,300,000\) | 10% | 97,500 |
\(3,300,000 < I_{\mathrm{tax}} \leq 6,950,000\) | 20% | 427,500 |
\(6,950,000 < I_{\mathrm{tax}} \leq 9,000,000\) | 23% | 636,000 |
\(9,000,000 < I_{\mathrm{tax}} \leq 18,000,000\) | 33% | 1,536,000 |
\(18,000,000 < I_{\mathrm{tax}}\) | 40% | 2,796,000 |
収入が給与所得のみの場合、所得\(I_0\)は収入\(I_{\mathrm{all}}\)、給与所得控除\(D_{\mathrm{sal}}\)、特定支出控除\(D_{\mathrm{sal}}^{\mathrm{sp}}\)をもちいて以下の式で与えられます。
$$ I_0=I_{\mathrm{all}} – D_{\mathrm{sal}} – D_{\mathrm{sal}}^{\mathrm{sp}} \tag{4}$$
Eq.(2)を代入すると、\(I_{\mathrm{tax}}\)ならびにEq. (1)は、
$$ I_{\mathrm{tax}}= I_{\mathrm{all}} – D_{\mathrm{sal}} – D_{\mathrm{sal}}^{\mathrm{sp}} – D_{\mathrm{I}} \tag{5} $$
$$ T_{\mathrm{I}}=\left( I_{\mathrm{all}} – D_{\mathrm{sal}} – D_{\mathrm{sal}}^{\mathrm{sp}} – D_{\mathrm{I}} \right) \times R – D_0 – D_{\mathrm{tax}} \tag{6} $$
となります。この式を見て分かるように、所得税の計算式には控除の項が多く登場します。後述するように\(D_{\mathrm{I}}\)と\(D_{\mathrm{tax}}\)はそれぞれ、所得と税額から差し引かれる各種控除をまとめたものとなっています。しかし、Eqs. (3), (4)に示したように、\(D_{\mathrm{sal}}, \ D_{\mathrm{sal}}^{\mathrm{sp}}, \ D_0\)は\(D_{\mathrm{I}}, \ D_{\mathrm{tax}}\)には含まれません。このことは所得\(I_0\)と収入\(I_{\mathrm{all}}\)の違いと合わせて理解しておくと、行政等が発信する所得税に関する説明を理解しやすくなります。
また、Eq(1)に加えて、2037年までは復興特別所得税\(T_{\mathrm{I}}^{\mathrm{sp}}\)が徴収されます。
所得控除
\(D_{\mathrm{I}}\)は以下の控除の合計として計算されます。
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除、
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除
多くの人に関係する控除としては、基礎控除\(D_{\mathrm{base}}\)、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除\(D_{\mathrm{SI}}\)などがあります。
基礎控除\(D_{\mathrm{base}}\)は以下の表で計算されます。
Condition | \(D_{\mathrm{base}}\) |
---|---|
\(I_0 \leq 24,000,000\) | 480,000 |
\(24,000,000 < I_0 \leq 24,5 00,000\) | 320,000 |
\(24,500,000 < I_0 \leq 25,0 00,000\) | 160,000 |
\(25,000,000 < I_0 \) | 0 |
社会保険料控除\(D_{\mathrm{SI}}\)では、健康保険、国民年金、厚生年金保険、国民健康保険の保険料などが控除の対象となります。社会保険料控除の対象となる項目については国税庁のHPで確認することができます。
扶養控除、配偶者控除ならびにその他の控除については、国税庁のHPを確認してください。
税額控除
\(D_{\mathrm{tax}}\)は税額からそのまま差し引かれる控除になります。\(D_{\mathrm{tax}}\)は対象とならない人も多いため、本ページでは詳細については記載しません。国税庁のHPを確認してください。
復興特別所得税
東日本大震災からの復興を目的とした施策のために、2037年までは復興特別所得税\(T_{\mathrm{I}}^{\mathrm{sp}}\)が課税されます。\(T_{\mathrm{I}}^{\mathrm{sp}}\)は以下の式で計算されます。
$$ T_{\mathrm{I}}^{\mathrm{sp}}=T_{\mathrm{I}} \times 0.021 \tag{7}$$
平成23年12月2日に東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(平成23年法律第117号)が公布され、「復興特別所得税」及び「復興特別法人税」が創設されました。
国税庁HP 個人の方に係る復興特別所得税のあらまし
最終的に\(T_{\mathrm{I}}, \ T_{\mathrm{I}}^{\mathrm{sp}}\)を合計した所得税\(T_{\mathrm{I}}^{\mathrm{all}}\)は100円未満が切り捨てとなり、以下の式で与えられます。
$$ T_{\mathrm{I}}^{\mathrm{all}}=r_2 \left( T_{\mathrm{I}} + T_{\mathrm{I}}^{\mathrm{sp}} \right) $$