本記事では、直方晶、正方晶、立方晶、等方弾性体について、結晶構造の対称性を考慮したときの弾性定数テンソルを示します。
本ページでは特に断らない限り、Einsteinの総和規約(Einstein summation convention)を用います。ただし、1つの項に同一の添え字が3つ以上存在する場合は、その添え字についてはEinsteinの総和則を適用しません。
Webページ上では要点のみを示しますので、細かな式展開については本ページ下部のpdfファイルをご確認ください。
弾性定数
弾性定数(弾性スティフネス: Elastic stiffness)\(C_{ijkl}\)は4階のテンソルであり、以下の記事で紹介しているように任意の座標系について以下の式が成立するため、独立な成分は21個となります。
$$ C_{ijkl}=C_{jikl}=C_{ijlk}=C_{klij} \tag{1} $$
結晶系の対称性を考慮すると、独立成分数はさらに減少します。本ページでは直方晶、正方晶、立方晶、等方弾性体の\(C_{ijkl}\)を導きます。
なお、六方晶系の弾性定数テンソルについては、以下の記事を確認してください。
\(C_{ijkl}\)はVoigt表記(フォークト表記: Voigt notation)を用いると、以下のように2階テンソルで表現することができます。
$$
\mathbf{C}=
\left[
\begin{array}{cccccc}
C_{1111} & C_{1122} & C_{1133} & C_{1123} & C_{1131} & C_{1112} \\
C_{2211} & C_{2222} & C_{2233} & C_{2223} & C_{2231} & C_{2212} \\
C_{3311} & C_{3322} & C_{3333} & C_{3323} & C_{3331} & C_{3312} \\
C_{2311} & C_{2322} & C_{2333} & C_{2323} & C_{2331} & C_{2312} \\
C_{3111} & C_{3122} & C_{3133} & C_{3123} & C_{3131} & C_{3112} \\
C_{1211} & C_{1222} & C_{1233} & C_{1223} & C_{1231} & C_{1212} \\
\end{array}
\right]
\tag{2}
$$
なお、Eq. (1)より、以下の式が成立します。
$$ \mathbf{C}=\mathbf{^{\mathrm{t}} \! C} \tag{3} $$
直方晶
直方晶(Orthorhombic)は、任意の\(x_i\)軸の反転に対して不変です。
弾性定数の座標変換は以下の式で表現されます。
弾性定数の座標変換
$$ C’_{ijkl}=C_{mnpq} l_{im} l_{jn} l_{kp} l_{lq} \tag{1-1} $$
$$ l_{ij}=\mathbf{e}’_i \cdot \mathbf{e}_j \tag{1-2} $$
ここで、\(C’_{ijkl}\)は変換後の座標における弾性定数、\(\mathbf{e}’_i\)は変換後の座標における\(x’_i\)軸の単位方向ベクトル、\(\mathbf{e}_i\)は変換前の座標における\(x_i\)軸の単位方向ベクトルです。
下図のような、\(x_i\)軸の反転を考えます。
この座標変換における方向余弦\(l_{ij}\)は以下の式で与えられます。
$$
l_{ii}=-1 \\
l_{jk}=\delta_{jk} (j \neq i, k \neq i)\\
\tag{1-3}
$$
ここで、\(\delta_{ij}\)はKroneckerのデルタ(クロネッカーのデルタ: Kronecker delta)です。
この座標変換では\(C_{ijkl}\)は変化しないので、Eq. (1-1)から以下の式が成立します。
$$ C_{rskl}=C_{mnpq} l_{rm} l_{sn} l_{kp} l_{lq} \tag{1-4} $$
Eq. (1-3)を用いて式変形します。(Eq. (1-5)の表現にはEinsteinの総和規約は用いていません)
$$ C_{mnpq}=C_{mnpq} l_{mm} l_{nn} l_{pp} l_{qq} \tag{1-5} $$
Eq. (1-3)より、\( j \neq i, k \neq i, k \neq j \)とすると以下の式が成立します。(Eq. (1-6)の表現にはEinsteinの総和規約は用いていません)
$$
l_{ii} l_{jj} l_{jj} l_{jj} = l_{ii} l_{jj} l_{jj} l_{kk} =l_{ii} l_{ii} l_{ii} l_{jj}=-1 \\
\mathrm{Others}=1 \tag{1-6}
$$
よって、以下の成分は0になります。(Eq. (1-7)の表現にはEinsteinの総和規約は用いていません)
$$ C_{ijjj}= C_{ijjk}=C_{iiij}=0 \tag{1-7} $$
この式は任意の\(i\)について成立するため、直方晶の\(\mathbf{C}\)は以下の式で与えられます。
$$
\begin{eqnarray}
\mathbf{C}
&=&
\left[
\begin{array}{cccccc}
C_{1111} & C_{1122} & C_{3311} & & & \\
C_{1122} & C_{2222} & C_{2233} & & \mathrm{O} & \\
C_{3311} & C_{2233} & C_{3333} & & & \\
& & & C_{2323} & 0 & 0 \\
& \mathrm{O} & & 0 & C_{3131} & 0 \\
& & & 0 & 0 & C_{1212} \\
\end{array}
\right] \\
&=&
\left[
\begin{array}{cccccc}
C_{11} & C_{12} & C_{31} & & & \\
C_{12} & C_{22} & C_{23} & & \mathrm{O} & \\
C_{31} & C_{23} & C_{33} & & & \\
& & & C_{44} & 0 & 0 \\
& \mathrm{O} & & 0 & C_{55} & 0 \\
& & & 0 & 0 & C_{66} \\
\end{array}
\right]
\end{eqnarray}
\tag{1-8}
$$
正方晶
正方晶(Tetragonal)では、直方晶の対称性に加えて、\(x_1\)軸と\(x_2\)軸の交換に対して不変となります。
上図のような座標変換を考えます。この座標変換における方向余弦\(l_{ij}\)は以下の式で与えられます。
$$
l_{12}=l_{21}=l_{33}=1 \\
\mathrm{Others}=0\\
\tag{2-1}
$$
Eq. (1-4)に代入すると、以下の関係式が得られます。
$$
C_{1111}=C_{2222} \\
C_{2233}=C_{3311} \\
C_{2323}=C_{3131} \\
\tag{2-2}
$$
よって、Eq. (1-8)に対してこの関係式を適用すると、正方晶の\(\mathbf{C}\)は以下の式で与えられます。
$$
\begin{eqnarray}
\mathbf{C}
&=&
\left[
\begin{array}{cccccc}
C_{1111} & C_{1122} & C_{2233} & & & \\
C_{1122} & C_{1111} & C_{2233} & & \mathrm{O} & \\
C_{2233} & C_{2233} & C_{3333} & & & \\
& & & C_{2323} & 0 & 0 \\
& \mathrm{O} & & 0 & C_{2323} & 0 \\
& & & 0 & 0 & C_{1212} \\
\end{array}
\right] \\
&=&
\left[
\begin{array}{cccccc}
C_{11} & C_{12} & C_{23} & & & \\
C_{12} & C_{11} & C_{23} & & \mathrm{O} & \\
C_{23} & C_{23} & C_{33} & & & \\
& & & C_{44} & 0 & 0 \\
& \mathrm{O} & & 0 & C_{44} & 0 \\
& & & 0 & 0 & C_{66} \\
\end{array}
\right]
\end{eqnarray}
\tag{2-3}
$$
立方晶
立方晶(Cubic)では、正方晶の対称性に加えて、\(x_1\)軸と\(x_3\)軸の交換に対して不変となります。
上図のような座標変換を考えます。この座標変換における方向余弦\(l_{ij}\)は以下の式で与えられます。
$$
l_{13}=l_{31}=l_{22}=1 \\
\mathrm{Others}=0\\
\tag{3-1}
$$
Eq. (1-4)に代入すると、以下の関係式が得られます。
$$
C_{1111}=C_{3333} \\
C_{1122}=C_{2233} \\
C_{1212}=C_{2323} \\
\tag{3-2}
$$
よって、Eq. (1-8)に対してこの関係式を適用すると、立方晶の\(\mathbf{C}\)は以下の式で与えられます。
$$
\begin{eqnarray}
\mathbf{C}
&=&
\left[
\begin{array}{cccccc}
C_{1111} & C_{1122} & C_{1122} & & & \\
C_{1122} & C_{1111} & C_{1122} & & \mathrm{O} & \\
C_{1122} & C_{1122} & C_{1111} & & & \\
& & & C_{1212} & 0 & 0 \\
& \mathrm{O} & & 0 & C_{1212} & 0 \\
& & & 0 & 0 & C_{1212} \\
\end{array}
\right] \\
&=&
\left[
\begin{array}{cccccc}
C_{11} & C_{12} & C_{12} & & & \\
C_{12} & C_{11} & C_{12} & & \mathrm{O} & \\
C_{12} & C_{12} & C_{11} & & & \\
& & & C_{44} & 0 & 0 \\
& \mathrm{O} & & 0 & C_{44} & 0 \\
& & & 0 & 0 & C_{44} \\
\end{array}
\right]
\end{eqnarray}
\tag{3-3}
$$
等方弾性体
等方弾性体は、任意の回転に対して不変であるため、立方晶の対称性に加えて下図のような回転を考えます。
この座標変換における\(l_{ij}\)は以下の式で与えられます。
$$
l_{11}=\cos \theta \\
l_{12}=\sin \theta \\
l_{21}=-\sin \theta \\
l_{22}=\cos \theta \\
l_{33}=1 \\
\mathrm{Others}=0\\
\tag{4-1}
$$
Eq. (1-4)に代入すると、以下の関係式が得られます。
$$ C_{1111}=C_{1122}+2C_{1212} \tag{4-2} $$
よって、Eq. (1-8)に対してこの関係式を適用すると、等方弾性体の\(\mathbf{C}\)は以下の式で与えられます。
$$
\begin{eqnarray}
\mathbf{C}
&=&
\left[
\begin{array}{cccccc}
C_{1122}+2C_{1212} & C_{1122} & C_{1122} & & & \\
C_{1122} & C_{1122}+2C_{1212} & C_{1122} & & \mathrm{O} & \\
C_{1122} & C_{1122} & C_{1122}+2C_{1212} & & & \\
& & & C_{1212} & 0 & 0 \\
& \mathrm{O} & & 0 & C_{1212} & 0 \\
& & & 0 & 0 & C_{1212} \\
\end{array}
\right] \\
&=&
\left[
\begin{array}{cccccc}
\lambda + 2 \mu & \lambda & \lambda & & & \\
\lambda & \lambda + 2 \mu & \lambda & & \mathrm{O} & \\
\lambda & \lambda & \lambda + 2 \mu & & & \\
& & & \mu & 0 & 0 \\
& \mathrm{O} & & 0 & \mu & 0 \\
& & & 0 & 0 & \mu \\
\end{array}
\right]
\end{eqnarray}
\tag{4-3}
$$
ここで、\(\lambda, \mu \)はラメ定数と呼ばれます。