初めて一人暮らし 火災保険(賃貸)の基礎知識

賃貸物件を借りるにあたっては、基本的に火災保険への加入が必要になります。火災保険は不動産仲介業者にて斡旋されるため、火災保険について詳しく知らなくても賃貸を借りることはできます。しかし、保険によっては仲介業者へのバックマージンが発生している場合があり、保険料が保険内容に対して割高になっていることがあります。賃貸借契約書に「指定の保険に加入する」という条項があるなどの特殊な場合を除き、不動産仲介業者から斡旋された火災保険以外に加入しても問題ありません。そのため、複数の火災保険を比較し、加入する保険を自分で適切に選択することにより、保険料を節約することができます。また、補償内容をよく理解せず保険に加入してしまうと、万が一の場合に保険金の申請を忘れてしまったり、損害が補償の対象外となるといった事態が発生してしまいますので、加入する保険の内容を事前によく理解しておくことが重要です。しかし、火災保険には細かな条項が多く、保険について詳しくない学生や若手労働者にとって、保険内容の違いがよくわからないということがよくあります。本ページでは、火災保険の比較にあたり重要となる基礎知識をまとめます。

火災保険で重要なポイント

  • 家財保険
  • 補償対象の損害
  • 借家人賠償責任保険
  • 個人賠償責任保険
  • 地震保険

家財保険

  • 自身の家財が補償対象
  • 補償金額を自身の家財の価値以上に設定しても無意味
  • 類焼により損害を受けることも想定する必要がある

家財保険とは自身(契約者)の家財(什器類など)が損害を被った際に補償される保険です。

火災保険では火災以外に津波などによる家財の損害が補償されます。補償対象となる損害は保険によって異なります。詳しくは次節の「補償対象の損害」を参考にしてください。

補償金額を選ぶことができる場合が多く、補償金額によって保険料が変化します。自身の保有する家財の価値以上の補償額を設定しても、損害を受けた家財の価値以上の保険金が支払われることはありませんので、自身の保有する家財の金額を見極め、適切な額を設定することが大切です。また、自動車などの一部の財物は家財に含まれませんので注意が必要です。

保険対象となる家財の価値には、時間経過による価値の減少を考慮した時価と新品価格の新価があります。家財保険では新価が対象となっていることが多いようですが、契約にあたってどちらの価格が補償対象となるのかを確認しておきましょう。

また、自動車など一部のものは家財に含まれませんので注意が必要です。

自分が火事を起こさない自信のある人にとっては、家財保険は不要なものに感じるかもしれません。しかし、火災保険の選択においては、隣室あるいは隣家での火事の類焼により自分が損害を受けた場合も想定する必要があります。他者が原因の火災で損失を負った場合はその責任者に損害賠償を請求すればいいと考える方もいるかと思いますが、火災の場合は他者に損害賠償を求めることができない場合があります。そもそも、不法行為による損害賠償は民法第七百九条に規定されてます。しかし、失火については失火法(失火ノ責任ニ関スル法律)にて重大な過失がある場合を除き、損害賠償責任を負わないことが定められています。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法第七百九条

民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

失火法(失火ノ責任ニ関スル法律)

それゆえ、隣家や隣室で火災が生じた場合、それが重大な過失・故意によるものでない場合は、自己の保険で対応をしなければなりません。逆に、自室が火元となった場合についても、重大な過失がある失火でない場合は、隣室などに生じた損害についてはそれを賠償する必要はありませんが、賃貸人(貸主)に対する賠償は免除されませんので注意が必要です(「借家人賠償責任保険」の項を参考にしてください)。

補償対象の損害

  • 火災以外の損害も補償の対象
  • 「破損・汚損」については免責金額を確認することが重要
  • 地震による損害(地震に起因した火災)は補償対象外

火災保険では火災以外による損害についても補償されます。補償対象となる主な損害は以下の通りで、対象は保険によって異なります。

  • 火災
  • 落雷
  • 破裂・爆発
  • 風災、雹災、雪災
  • 水災
  • 水ぬれ
  • 盗難
  • 建物外部からの物体の衝突等
  • デモに伴う破壊行為等
  • 破損、汚損

安価の保険料の保険では「水災」と「破損・汚損」に関する項目が補償対象外となることが多くあります。

「水災」と「水ぬれ」が項目として存在していますが、「水災」は洪水などを対象としているのに対し、「水ぬれ」は洗濯機からの漏水による被害を対象としています。「破損・汚損」は過失による損害を対象としており、うっかり家電を落として壊してしまった場合などが対象となります。「破損・汚損」は日常的に起こりうる損害が補償対象となっているため、様々な場面で保険を活用することができる可能性があります。しかし、免責金額が設定されている場合が多く、自己負担金が発生することがあるので契約にあたって事前に確認をしておく必要があります。

高価な貴金属や現金については、補償に関して規定が定められており、補償金額が限定されています。「風災、雹災、雪災」については一定額以上の損害のみが補償対象とされていることがあります。

火災保険では基本的に、地震による被害は補償されません。また、地震によって生じた火災による被害も補償されません。これらに関する被害の補償を希望する場合は、地震保険に合わせて加入する必要があります。詳しくは「地震保険」の項を確認してください。

借家人賠償責任保険

  • 賃貸人(貸主)に対する賠償を補償する保険
  • 重大な過失のない失火でも損害賠償責任が発生
  • 賃貸の火災保険で非常に重要な補償内容

借家人賠償責任保険は賃貸人(貸主)に対する賠償を補償する保険です。賃貸契約にあたっては借家人賠償責任保険の補償金額を指定される場合が多くありますので、契約にあたっては条件を必ず確認する必要があります。

「家財保険」の項で重大な過失がない失火については、不法行為による損害賠償の責任を負わないことを説明しましたが、借りている部屋の損害については重大な過失がなくても損害賠償責任が発生します。賃借人(借主)は賃貸契約に基づき原状回復義務を負っているため、失火によって部屋に損害を与えた場合は債務不履行による損害賠償責任が発生します。失火法は不法行為による損害賠償に関する規定であり、債務不履行による損害賠償には適用されてないことが最高裁の判例で出ています。

債務不履行による損害賠償については「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用はない。

最高裁判例( 昭和30年3月25日)

思わぬ火事などで、借りている部屋については高額な損害賠償責任を負う可能性がありますので、借家人賠償責任保険がきちんと付帯した保険に加入することが大切です。

個人賠償責任保険

  • 被保険者が日常生活の事故で他者の生命・身体、財物に与えた損害を補償する保険
  • 他の保険の個人賠償責任保険との重複に注意

個人賠償責任保険は被保険者が日常生活の事故で他者の生命・身体、財物に与えた損害を補償する保険です。賃貸契約にあたっては個人賠償責任保険の補償金額を指定される場合がありますので、契約条件を確認する必要があります。

個人賠償責任保険については、自動車保険などにも付帯することができる保険です。保険の重複により保険料が無駄にならないように注意することが大切です。

地震保険

  • 地震による損害を補償する保険
  • 火災保険とセットでの加入が必要
  • 補償内容が限定されるため、必要性をよく検討することが大切

地震保険は火災保険で補償されない地震による損害を補償する保険です。地震保険は火災保険とセットの保険であり、地震保険単体で加入することはできません。

地震保険の補償金額は火災保険の補償金額の30~50%の金額となっており、下表のように地震によって生じた損害の度合いにより補償金額が制限されます。一部損の場合には火災保険の補償金額の1.5%~2.5%が補償の上限となります。例えば、火災保険の補償金額を200万円に設定した場合には3~5万円が上限となります。このように地震保険は補償金額が限定される可能性があるため、保険金額考慮し加入の必要性をよく検討することが大切です。

損害状況補償上限
全損補償金額の100%
大半損補償金額の60%
小半損補償金額の30%
一部損補償金額の5%
地震による損害と地震保険の補償上限

賃貸では建物の損害については貸借人(借主)が補償する必要はないため、地震保険に加入する場合は家財を対象とした地震保険に加入しましょう。

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